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海からの大量のCO2放出は無い(2) [ 地球温暖化を学ぼう]

前回の続きだ。下記の図1をみると、海から大気へ放出される二酸化炭素(CO2)に
比べると、人間が出すCO2なんて微々たるものだ、CO2増加は自然現象であって人間の
せいではないのではないか?なんて思えてくる。はたしてそれは正しいか?というお話。

キャプチャ.JPG
図1. 炭素循環の模式図(1990年代) (気象庁HPより)

じゃあ、この図の原図を確かめてみようというわけで、なんとか大元となる図が
見つかった。というか、廻り回ってたどり着いたのはIPCC第3次報告書だった。
 http://www.grida.no/climate/ipcc_tar/wg1/pdf/TAR-03.pdf
 ※Figure 3.1。下記はその一部。

 fig1.JPG
 fig2.JPG
図2. a) CO2の自然循環、b) 人為的なCO2放出

これでハッキリした。
気象庁の模式図(図1)にあるような、900億トン以上のCO2の海から大気への
放出は図2には描かれていない。その代わりに、約900億トン(90Gt)の「平衡状態」
が描かれている。図2aの右側、海と大気を繋ぐ「両矢印」である。
(※トン数=図1と同じく炭素重量に換算)。

平衡状態とは、ある変化と別の変化が釣り合って、外から見ると何も変化が起きていない
ように見える状態を指す。つまり水の表面が波一つなく鏡のように滑らかに見えたとしても
そこでは分子のやりとりが常に行われているのだ(そして出入りは釣り合っている)。
最初に紹介した図1の、海から大気あるいは大気から海への矢印(赤や黒色)は
足し引きするとほぼゼロであり、概ね釣り合っている。これも平衡状態を示していたのだ。
詳しくは下記をご覧頂きたい。
●海と大気による二酸化炭素の交換(ココが知りたい温暖化:国立環境研究所)
 http://www.cger.nies.go.jp/ja/library/qa/3/3-1/qa_3-1-j.html
●海洋物理学 第4章 海面での気体交換(天魚のウェブサイト)
 http://www.geocities.jp/amenouoiwana/oceanography.html

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ただし完全に釣り合っているわけではない。大気中のCO2も海洋中のCO2も刻々と変化
する。なので海か大気のどちらかへ過剰にCO2が移動しているケースは無論ありうる。
ではどちらに移動しているのか? 前回の温暖化連載(下記)でその計算例を紹介した。
計算結果によれば、大気から海へ年間約21億トン(炭素重量に換算)のCO2移動が
明らかとなった(なお、この例では「海からの放出もありえる」として計算している)。
●CO2はどこから来たか?CO2に聞けば良い 
 http://goto33.blog.so-net.ne.jp/2014-03-13

「そりゃおかしいぞ! 図2は古いし間違いじゃないか?図1の方が正しくて、CO2は
海から大量に放出されている!」という人、図2がなければ図1もないことをお忘れなく。

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私見だが、IPCC第4次報告書には炭素循環を1枚にまとめた図1が採用された。シンプル・
イズ・ベストのつもりだったのかもしれないが、かえって一般大衆の誤解を招いたようだ。
そして現在はどうか? 実は気象庁のHPでは図1はもはや掲載されてはいない。今年4月
くらいから次のような図に差し替わっている(図3:数字の単位は億トン、炭素重量に換算)。
これは最新のIPCC第5次報告書からの引用であり、第3次報告書のもの(上記の図2b)に
似ている。誤解を生む図1のスタイルから、昔の図2のスタイルへ戻したようにも思える。

●海洋の炭素循環と炭素収支(気象庁)
 http://www.data.kishou.go.jp/kaiyou/db/co2/knowledge/carbon_cycle.html
 キャプチャ.JPG
図3. 人為起源炭素収支の模式図(2000年代)(以下は気象庁HPより)
IPCC(2013)をもとに作成。各数値は炭素重量に換算したもので、黒の矢印及び数値は産業革命前の状態を、赤の矢印及び数値は産業活動に伴い変化した量を表しています。2000~2009年の平均値を1年あたりの値で表しています。

つまりは、海からのCO2大量放出などなく、むしろ海がCO2を大量に吸収しているらしい。
その詳細プロセスはまだ研究中であり、いまこの瞬間も多くの科学者が「温暖化は人類に
とって深刻な問題かどうか?」「どうすれば回避できるか?」を一生懸命に考えている。
地球温暖化問題は、科学的にすべて解き明かされたわけではない。にもかかわらず彼らの
努力をねじ曲げて、勝手気ままな温暖化懐疑論へ結びつけたって、何の意義も意味もない。
温暖化は私の専門ではないが、科学を愚弄する行為は許しがたい。

さて次回は、CO2濃度の年周変化とそのルーツを考えてみよう。

この毎年の上がったり下がったりのパターンはなぜ生まれるのか?

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MANTA

どうも「平衡」や「正味」の意味が分かっていないのに、上記の記事を批判
している人がいるらしい。上記のリンク先などを少しは読んだらどうだろうか?
また、当ブログはCO2変化と気温変化の相互の因果関係を「無視している」とも
批判されているようだ。実際にはもう何度も書いてる。

科学を理解したフリをして持論を振りまいたり、批判や質問に対して「既出だよ」
と言われることは、普通は恥だから控えるのだが、そんなことには気が付かず
「オレ、温暖化懐疑派の論客!」と思い込む人もいる。
まさにこういう「論客」が科学をダメにしている。(背景には、こんな意見を
本当と信じ込む「市民」の存在もある)。だからこんな余分な補足を書かねば
ならない。困ったもんだ。
※これは原発批判にもつながる傾向である。興味深いので別に記事を書こう。

Twitterでぶつぶつとつぶやく暇があるのなら、ここへコメントを寄せられたら
どうであろうか? 貴殿が、いわゆる無知な「論客」でないのなら、

by MANTA (2014-05-25 10:44) 

mushi

お疲れさまです、としか言い様がないですね・・・。
平衡の意味を理解していない(あるいはわざと曲解している)のは、私のブログに対するコメントと同じです。
by mushi (2014-05-26 00:12) 

MANTA

mushiさん、コメントありがとうございます。
まずは同氏からのコメントを待ちたいと思います。彼のブログの解説では
全く的を射ていませんので。どうぞよろしくお願いいたします。
by MANTA (2014-05-26 07:43) 

MANTA

本記事を批判するトラックバックをichijinさんから頂きました。
ichijin.seesaa.net/article/397791931.html

以下のようにお返事いたします(『』は上記ページより引用)。
・上記の図2は『「平衡状態」が描かれているものでは全くない』と
 指摘されていますが、間違っています。原資料を読むべきでしょう。
 http://www.grida.no/climate/ipcc_tar/wg1/pdf/TAR-03.pdf
 Figure 3.1のキャプションによれば、"これらの矢印はCO2の釣り合い
 を示している。海については物理的な大気-海洋間での交換(physical
 air-sea exchange)であり、毎年概ね釣り合っている”だそうです。
 さらに3.2.3の2段落目(p.197)では"大気と海面での交換は、そこを
 横切る分子拡散による"と明記されています。つまり図2は物理的な
 "交換"あるいは"平衡状態"を描いています。
・『海によるCO2の放出・吸収のいずれもが厳然と存在している』ことは
 当然です。人為的影響がない状態で釣り合っているかどうかです。
 ところで先のFigure 3.1のキャプションでは「釣り合っていない部分」
 についても言及があり、"複数年~複数世紀に渡るCO2濃度変化に影響を
 与えうる"そうです(与えるではなく、与えうる)。ではそれは具体的に
 どの程度の大きさかというと、Francey et al. (Nature, 1995)の式1が
 そうであるように、大気中のCO2濃度変化において"交換"の項は
 無視される(できる)のが通例です。
・ご反論がお有りでしたら、上記の図2の両矢印が"交換"や"平衡状態"を
 示していないという文献をご紹介ください。ichijinさんのブログの
 文献はいずれも"交換"または"平衡"を示すものです。
・ちなみにFrancey et al. (Nature, 1995)では、"交換"における
 「disequilibrium term(※)」についての記述があります。ただし
 これは炭素同位体比についてであり(式2)、大気濃度そのものには
 影響を与えないと考えられています。

※注:equilibrium=平衡なので、上の記事中では「平衡状態」と書いた。しかし厳密には、i) 物質の濃度変化も物質輸送もない状態を平衡状態といい、ii) 物質の生成過程と分解過程の速度が等しく物質の濃度変化がない状態を動的平衡状態という。よって上記は動的平衡状態と言い換えたほうが正確である。なお分野や視点によっては、定常状態と呼ばれる場合もある。
by MANTA (2014-06-27 19:17) 

MANTA

追記:上記の反論に対する反論がブログに追記されたようです。しかし、
残念ながら、同氏は科学的な議論の仕方をご存じないようです。

(以下はichijin.seesaa.net/article/397791931.html#comment より)
>「3.2.3の2段落目(p.197)」との箇所も、海-大気間のCO2交換過程
>そのものが主として何によってなされているかを説明しているだけであり
それを理解することが大事なのですが、分子拡散を理解できないようですね。

>問題にしているのは「分子拡散」そのものではなく、それによってなされ
>る海-大気間のCO2交換過程が「平衡状態にあるのかないのか」
この一文に、氏が分子拡散を全く理解できていないことが示されていますね。
またFrancey et al. (Nature, 1995)などで、大気中のCO2濃度変化
において"交換"の項が無視されている例を紹介しましたが、それに対する
科学的な反論もありません。

>この手の文献やら論文やらを示せとの要求は、もはや逃げ口上の類。
科学では「証拠」をベースに議論します。それを示さない議論はもはや疑似
科学、あるいは妄想です。

>そうした証拠などに対する解釈・理解が珍妙であると指摘しているのである。
ですので指摘に資する資料を持ってこられるとよいでしょう。ichijin氏の
資料はいずれも"交換"または"平衡"を示すものです。

それでも同氏のブログを読んで、「科学的なブログだ」と思う輩が多いよう
です。科学技術教育の重要性をあらためて感じます。
by MANTA (2014-07-01 19:06) 

伊牟田勝美

地球温暖化が問題視されるようになって何年経ったのでしょうか。
気象庁のデータベースで調べてみましたが、潮岬の気温は年平均で0.01℃のペースで上昇していました。都市化などの影響を受けにくい潮岬ですので、温暖化していることは間違いないと思っています。
ですが、本当の問題は、大気中に排出されるCO2が多すぎることではないでしょうか。
地球温暖化は、CO2の増加による二次的な問題です。
CO2増加は、海洋の酸性化や深海の酸欠を引き起こすそうです。樹木の低栄養化にも関係するため、草食動物への影響も懸念されます。
仮に、地球が寒冷化しつつあるとしても、CO2排出量を減らさなければなりません。

世の中には、地球温暖化懐疑論者がおられますが、CO2増加の問題を無視した論法はどうかと思っています。
by 伊牟田勝美 (2016-05-11 23:00) 

MANTA

伊牟田勝美さん、お返事が遅くなりました。

>世の中には、地球温暖化懐疑論者がおられますが、CO2増加の問題を
>無視した論法はどうかと思っています。
ところが、世の中には「CO2増加は温暖化の要因ではない!」と信じこみ、
そのための証拠をたくさん並べ(しかし誤読が多く、証拠になっていない:
上記のichijin氏はその典型例)、「ほらみろ、CO2増加なんて関係ないんだ」
と主張をする一方で、科学的な議論には決して踏み込まない、そんな輩が
多いことも事実です。

そして、それらの科学的ではない情報をみて、「温暖化ってやっぱり嘘だった
んだ」と信じこむ一般の市民や大学生が如何に多いか。
科学教育がこの国には圧倒的に不足しているのです。
科学立国など、欧米と比べたら、まだまだ夢の向こうの向こうであることを
この国の人達はまだ理解できていないかもしれません。
by MANTA (2016-05-23 12:57) 

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