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美味しんぼ騒動とSTAP騒動の共通点(2) [ 科学コミュニケーション]

先日の続きです。
下の図を見て、「野球選手の身長と年俸には関係があるか?」を議論してました。
グラフからは「なさそう」と思うのですが、ある人は「ある!」と言い張ります。果ては
「身長と年俸に関係がないという証拠はあるか?」と言い出します。
fig2.JPG
 前回の図と同じですが、赤・青点の区別をやめました。

どのようなデータにも常に「ノイズ」がつきまといます。いまは身長以外に年俸を左右
する要素がノイズになっています。ですので「身長と年俸の関係は明瞭ではない」と
までは言えますが、「全くなんの関係もない」とまでは言い切れません(※1, 2)。
これは科学の限界だと言えます。「ないこと」を証明するためにはノイズゼロのデータが
必要ですが、実際はムリです。故に科学において「ないこと」の証明は不可能な場合
が多く、「悪魔の証明」(=実行するのが不可能な証明問題)とも呼ばれています。

…人間は思い込みが強い生き物です。多くの人たちは”希望するように物事が動く”
(動いてほしい)と強く思っていますが、願いが強すぎると科学も次のように歪みます。

1) 自身の思い込み(仮説)に沿うデータがあれば、「これは○○の証拠だ」と確信する。
2) 原因と結果のメカニズムを科学的に探らない。仮説を証明できる別の方法があっても
  やらない。仮説以外の要素でデータを説明しようとしない。
3) 反論する人には「これが○○と関係がないって証拠を持ってこい」と向き直る。

この3要素(※3)が揃うと、もう立派なニセ科学(疑似科学)です。しかし一般市民には
科学的な議論に見えてしまうようです。 さらに「科学vsニセ科学」が勝負した場合、
(後で詳しく述べますが)、結果はいつも「ニセ科学の勝利」に終わります。

なぜ疑似科学を信じるのか: 思い込みが生みだすニセの科学 (DOJIN選書)

なぜ疑似科学を信じるのか: 思い込みが生みだすニセの科学 (DOJIN選書)

  • 作者: 菊池 聡
  • 出版社/メーカー: 化学同人
  • 発売日: 2012/10/19
  • メディア: 単行本


さて、「美味しんぼ騒動」はどうだったのでしょう?あらためて特徴をみてみましょう。
報道された情報のうち、「鼻血と被曝の影響が無視できない」とする意見の代表例を
見てみると(前回の記事冒頭でも幾つか紹介しました)…
------------------------------------------------------------
●双葉町元町長、井戸川克隆氏=美味しんぼに登場し、鼻血の要因は被曝と発言
 ※元双葉町長、血つき「鼻血写真」を公開 Facebookにはなぜか応援コメント続々
●西尾正道名誉院長=鼻血に医学的根拠がありと発言
 ※鼻血問題に関する西尾正道北海道がんセンター名誉院長の見解
 (飯田哲也氏Facebookより:以下引用)"伊達市の保原小学校の『保健だより』には、
  『1学期間に保健室で気になったことが2つあります。 1つ目は鼻血を出す子が
   多かったこと。・・・』と通知されています。"
 →その保健だよりは下記。2011年7月号の様子。
 ※【福島県伊達市】小学校の『保険だより』に「1学期間に鼻血を出す子が多かった」
●熊本学園大学による鼻血の調査結果も紹介されています。
 ※メカニズム不明でも放射能による鼻血は証明できる!・・・『美味しんぼ』応援第三弾!より。
 →※水俣学の視点からみた福島原発事故と津波による環境汚染
 (以下引用:p.18) "2012年11月時点で木之本町に比べて,双葉町で有意に悪く(中略)
 体がだるい,頭痛,めまい,目のかすみ,鼻血,吐き気,疲れやすいなどの症状であり,
 鼻血に関して両地区とも高いオッズ比を示した"
------------------------------------------------------------

沢山の情報があるように見えますが、福島での放射線と鼻血の因果関係に関する
調査結果はひとつも見当たりません(どなたかご存知でしたらお知らせ下さい)。
他にいくつも気になる点があります。例えば元町長はすぐ病院に行き、診断書を
マスコミに見せるほうが、鼻血の写真よりずっと効果的なはずです。なぜやらないのか?
名誉院長の方は科学的な調査資料ではなく、「保健だより」を引用していますね。
しかも3年近く前のもの。これがなぜ、「いま」鼻血を出す人達の証拠につながるのか?

参考:「美味しんぼ」騒動の問題点は「事実か否か」ではない - 前田 陽次郎
 http://agora-web.jp/archives/1594771.html
参考:「美味しんぼ」“鼻血は被曝”を検証 漫画のような事実はあるのか
http://www.sankeibiz.jp/compliance/news/140525/cpd1405250848001-n1.htm

さらには、このような意見がありました。
●「美味しんぼ」一時休載へ 最新号で「表現のあり方を今一度見直す」と編集部見解
 http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/140516/dst14051623260014-n2.htm
 (以下引用) 
 "岡山大の津田敏秀教授(疫学、環境医学)は「『低線量放射線と鼻血に因果関係はない』
 と言って批判をされる方には、『因果関係がない』という証明を出せと求めればいい」
●「極端な意見」「住民の立場に」=「美味しんぼ」問題、識者にも両論
 http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140519-00000055-jij-soci
 (以下引用)
 ”武田邦彦中部大教授は「今回の議論は『真実かどうか』を問題にするより、自治体は
 住民側に立ち、鼻血程度でもどんどん報告していくべきだ」と強調した。"

前者はまさしく悪魔の証明です。後者はより狡猾です。鼻血の全患者検査なんて
できないし、やっても仕方ありません。例えば私も鼻血をよく出してます。去年・今年
と福島県を新幹線で通過したこともあります。でもね、鼻血は子供の頃からなんですよ。
こんな報告を多数集めていったい何が分かるでしょう? 言葉を少し変えてますが、
結局は不可能なことを要求しており、これも悪魔の証明と同等です。

----
この「鼻血問題」は冒頭のニセ科学の3要素を全て満たしています。
その背景には、科学的思考よりも「原発は悪、福島にはまだ放射能が蔓延」という思い込み
があるのでしょう。思いが強ければ強いほど、都合の良いデータを選び、一部の関係のみに
注目し、しかし因果関係を科学的には探求しない。さらには科学の弱点を巧妙について
「弱い放射線でも鼻血が出ないと証明してみろ!」と迫ります。

しかも、多くの人やマスコミはこのようなニセ科学に見事に騙されます。
「そうだ、鼻血と放射線が関係ないことを科学的に証明すればいいのだ!」と簡単に
思いがちです。しかしそれは悪魔の証明。科学の限界であり、ニセ科学の勝利です。
そして不安に煽られた市民は「科学の顔をした何か」に救いを求めます。

さて次回は表題にあるSTAP細胞の騒動に話題を移しつつ、
このシリーズを締めたいと思います。

※1:相関係数が0に相当近かったとしても、身長以外の影響を加味した解析(例:多変量解析)などを行うと、関連性が明らかとなる場合があります。つまり科学者は、ある仮定のもとで統計学的な相関の有無を議論しています。
※2:仮に身長以外の要素の影響を取り除くことができたとしても、身長と無関係なノイズは取りきれません。ですので、身長と年俸の関係については「明瞭な関係がある」もしくは「明瞭ではない」「起きる確率が何%以下」という議論はできますが「全く無関係だ」という結論にはたどり着くことは困難です。
※3:上記を書き上げた後で、Wikipediaの「疑似科学」をみると、本記事の3要素は「ハインズによる指摘」に似ていました。ご参考まで。

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Working Dad Oversea

キレの良い説明が良いねー。
次回が楽しみだね。
by Working Dad Oversea (2014-05-31 01:51) 

MANTA

Working Dad Oversea さん、コメントありがとうございます。
>キレの良い説明が良いねー。
そうでもないですよ、知り合いの研究者の方から統計学の誤りを指摘頂いたり
してますよ。 (^^;)

続きは今週中程にUPかな? ほんとは今日の予定でしたが、原稿など〆切
3つで、まさにいまヒーヒー言っています。
by MANTA (2014-06-01 19:00) 

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