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謎や疑問の追究方法:ナウマンの場合 [ 科学コミュニケーション]

「研究」と「勉強」(学習と言ったほうがただしい)の違いはなんだろう?
高校までひたすら打ち込んできたのは、勉強あるいは学習(Learn)の方だろう。
一方、大学に入学し、4回生ともなれば、卒業するために研究(Research)なるものを
やらないといけない。卒業論文を書いて、晴れて卒業という大学は多い。

「研究」と「勉強」の違いはなんだろう?
私はよく、この問いを高校生や大学1回生に向けて投げかける(※注1)。
私なりの正解は、「勉強には答えがある、研究には答えはない」だ。
解答の付いていない参考書で受験勉強できるだろうか? 
他方、解答付きの研究など、私はみたことはない。
(大抵は想定した「解答」と違ってくるものだ)。

科学的研究とは、つまりは謎や疑問の追求である。
しかし卒業研究などが徐々に佳境を迎えつつある昨今、研究の進め方で悩む学生も多い。
今日は、ある研究者の足跡を辿って、上手な謎の解き方を考えてみよう。

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 唐突にゾウ。タイにて撮影(この話題もまたブログに書かなきゃ)。

科学的研究というのは、ただガムシャラに頑張れば良い、というものではない。
ではどうすればよいか? 簡単だ、頭をつかうことだ。一例を挙げよう。
「ナウマンゾウ」というゾウが、日本にかつて住んでいたという話を
どこかで聞いたことはあるだろう。日本にゾウ。なんかロマンチックである。

このゾウの標本を最初に研究したのが、ドイツ生まれの地質学者、ナウマンだ。
ナウマンは明治政府が呼び寄せた、いわゆる「お雇い外国人」の一人であり、
東京帝国大学(現:東京大学)地質学教室の初代教授である。来日時、21歳。
その後、10年間日本に滞在し、 日本で初めて「日本列島全体の地質図」を描いた。
最新の地質図と比べると、もちろん正しくない部分はあるが、帯状の地質の分布は
間違ってはいない。

 map0.JPG
 大鹿村中央構造線博物館「中央構造線の命名者エドムント・ナウマン」より。
 http://www.osk.janis.or.jp/~mtl-muse/subindex03-07naumann.htm

ところでナウマンは滞在わずか10年。その間に、この広い日本列島の地質の様子を
どうやって調べ上げたのか? ナウマン一人で調べたわけではないとしても、
交通網が発達していない明治時代には大変な労力であったと思われる。

ある研究によれば(※2:文献1)、調査地域の中の高い山に登り、そこから地質の様子を
観察したそうだ。地質調査に適したガケも効率よく見つかったらしい。それはそうだろう。

ところが別の説では(※2:文献2)、野外調査に先立って、すでに日本の地質の様子を
ある程度知っていた可能性が指摘されている。ヒントは東京に数多ある庭園だ。

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 新宿御苑 by Kentaro Ohno (protected by CC License)

都内の庭園は、元は江戸時代の大名屋敷の庭園である場合が多い。池があり、
名木があり、名石がある。名石とは、すなわち各大名の地元の「きれいな石」である。
庭園に行けば各地方の代表的な石にお目にかかれる。ナウマンはそこに目をつけて、
東京に居ながらにして、全国各地の地質の概要を把握したのではないか?

これはあくまで噂ではあるが興味深い。地質学者と言えば、作業着に身を包み、
野山を駆け巡るイメージだが、ナウマンはもしかすると、スーツで都内の庭園を回って、
厳しい野外調査に先立って情報収集に勤しんだかもしれない。あるいは、都内の貴族の
パーティーに招かれた時に、「あ!この庭石は!」と気づいたのかもしれない。
庭園の美しさと、地質学という科学的研究が結びつくのも面白い。

ナウマンはその後、ドイツに帰国するが、彼の残した功績は大きかった。
昨今、地震が多いと話題の「中央構造線」も、西南日本と東北日本を分ける
地帯「フォッサマグナ」も彼が発見・命名したのである。

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もしも、順番が逆だったらどうだろうか?
ナウマンが、何年にも及ぶ野外調査を行い日本の地質の様子をくまなく調べたあとで、
実は東京の庭石に、調べたのと同じような各地の石が飾られていたら?
ショックで寝込むのではないだろうか?

一生懸命に研究テーマに打ち込むことは悪いことではない。
しかしガムシャラだけが道ではない。
21世紀のいま、インターネット・本・論文など、情報に溢れかえっている。
これって「大名屋敷の庭石」なのではなかろうか?
謎に向かうのは、頭を使って、アイデアを練ってからでよい。
あなたにとっての「庭石」をみつけるのにそう時間はかからないはずだ。

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 地質調査に挑む若者たち(こちらこちら

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 「庭石」は見つかったか?

…などと、思う今日このごろ。
以上、研究の進め方で悩む学生への一助になれば幸い。

※1:高校生からのありがちな答えは、「勉強はさせられるもの、研究は自ら自由に行うもの」。しかしこれでは高校の先生が頭を抱えることになる。先生の心の声は、「勉強も自ら進んで、自由にやってくれよ~!」である。

※2:上記は以下の文献を参考にしています。
文献1)矢島道子,ナウマンゾウの「ナウマン」は-日本で最初の地質学教授のこと, 学術の動向, 13巻, 8号, 93-97, 2008.
 https://www.jstage.jst.go.jp/article/tits1996/13/8/13_93/_article/-char/ja/
文献2)木村学, ナウマンと三四郎池(理学エッセイ), 東京大学理学系研究科・理学部ニュース, 44巻, 3号, 10, 2012.
 http://repository.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/dspace/bitstream/2261/52163/1/rgn44_3_4.pdf

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伊牟田勝美

巷の有料地震予知の酷さにたまりかね「地震予知研究の手引き(http://imutakatumi.officialblog.jp/archives/cat_206508.html)」なるものをまとめましたが、本来は農業と気象の関係に興味があり、素人研究を続けています。
現在は、手始めに「サクラ開花予想」を研究しています。
と言っても、今春は目標に達することができず、断念しました。
10月に入り、半年ぶりに再開し、春の障害は突破することができました。
私がやっていることが「研究」と言えるのか分かりませんが、誰も知らないだろうことを見つけるワクワクに浮かれています。
by 伊牟田勝美 (2016-11-17 21:08) 

keisuke

飲み会ネタに使ってもいいですか?
面白いですね~
by keisuke (2016-11-18 12:28) 

MANTA

>巷の有料地震予知の酷さにたまりかね「地震予知研究の手引き」
>http://imutakatumi.officialblog.jp/archives/cat_206508.html
>なるものをまとめました
伊牟田勝美さん、拝見いたしました。「解決しておくべき大きな問題が三つ」
について、概ね同意いたします。現在、これに関する書籍を執筆中ですので
私の考えについてはまた近いうちに触れてみたいと思います。
(といっても年明けでしょうけど)

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>飲み会ネタに使ってもいいですか?
keisukeさん、ありがとうございます。
ぜひぜひ。
っていうか、私自身、飲み会などのネタにしてきた話です(^^)
by MANTA (2016-11-19 18:49) 

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